3.1産業構造の変化や産業の空洞化はなぜ起こるのか

総論第2部

第2部:構造改革編―自立と安心 3.外的ショックに強い「自律的産業構造」の構築 3.1産業構造の変化や産業の空洞化はなぜ起こるのか

ウイリアム・ペティとコーリン・クラークは、経済の発展とともに、産業の中心は、第1次産業から第2次産業そして第3次産業へシフトするという「ペティ・クラークの法則」を提唱しました。これは経済の発展と成熟とともに、各産業の生産構成比率(産業構造)が変化することを説明した理論です。

現在トランプ政権下の高関税政策が、世界経済に大きな混乱をもたらし、司法当局からは大統領の権限を越えた法律違反と断罪されています。トランプ高関税政策の背景には、アメリカの鉄鋼や自動車などの製造業が衰退し産業の空洞化をもたらしたことがあります。産業の空洞化とは、単に第2次産業の衰退にとどまらず、産業構造のドラスティックな変化を象徴する現象です。産業の空洞化を含めて、なぜ産業構造の変化が起こるのか、その要因は何かを考察します。

結論からいうと、産業構造の変化を規定する最大の要因は、家計、企業、政府などの経済主体の最終需要がどの産業にむかうかという、最終需要の産業別構成比の変化にあるといえます。なお、最終需要とは、消費・投資・海外取引などの経済活動の総体を指します。

家計では、日常的生活における財・サービスの購入である家計消費支出と住居確保のための民間住宅投資が最終需要を構成します。企業は、将来的に必要な生産能力を目標とした民間設備投資と対外的取引を反映した輸出と輸入が最終需要に反映される。政府は、政府最終消費支出と呼ばれる消費と公共投資が最終需要を構成します。

各経済主体の最終需要が産業構造にどのような影響を与えているかを探るために、ここでは「2020年産業連関表」のデータに基づき分析を行います。

「2020年産業連関表」における最終需要項目は、家計消費支出、一般政府消費支出、国内総固定資本形成(公的)、国内総固定資本形成(民間)、輸出、輸入から構成されています。尚、国内総固定資本形成(民間)は、民間設備投資と民間住宅投資の合計です。

産業分類については、大分類、中分類、小分類などいろんな分類の仕方がありますが、ここでは、産業大分類をくくりとした、第1次産業、第2次産業、第3次産業という三分類をもとに分析します。

第1次産業は、大分類の「農業」、「林業」、「漁業」、第2次産業は大分類の「鉱業」、「建設業」、「製造業」,第3次産業は前記以外の大分類産業から構成されます。但し、第2次産業における3つの大分類産業は性質が大きく異なること、その中で、製造業の動向が主眼になることを考慮して、ここでは第2次産業としてのくくりはしません。

表1は、2020年における各需要項目の総額が、どの産業の財・サービス購入に向けられたかの割合を示しており、ここでは構成比率と呼ぶことにします。

2020年における家計消費支出の総額は、282兆5060億円でしたが、そのうち第1次産業の財・サービス購入に当てられた金額の割合(=構成比率)は、1.3%であったことがわかります。製造業の構成比率は20.2%、第3次産業の構成比率が78.5%になっています。家計消費支出の大半は第3次産業の財・サービスに向けられていることがわかります。

2020年における一般政府消費支出は114兆1790億円でしたが、その全てが第3次産業の財・サービスの購入であったことがわかります。

経済が発展すると産業は第3次産業へシフトするという「ペティ―・クラークの法則」は、経済が発展すれば家計や政府の消費支出が増えて、これが第3次産業を成長させると解釈することが可能です。

これに対して、投資が産業に与える影響は異なります。2020年の国内総固定資本形成(公的)は31兆7650億円でしたが、そのうち実に71.7%が、建設業の供給する財・サービスへ支出されています。2020年の国内総固定資本形成(民間)は124兆5580億円でしたが、このうち、建設業へ32.8%、製造業へ28%、合計で60.8%が第2次産業の財・サービスに支出されています。このように、投資は第2次産業の生産と成長に大きく影響することがわかります。

貿易のうち、輸出は68.8%が製造業、輸入は14.9%が鉱業、65.2%が製造業に依拠しています。

以上のことから、消費は第3次産業の拡大を、投資及び輸出・輸入は第2次産業の活動をそれぞれ規定していることがわかります。

今後の展望として、アメリカのように消費主導で投資が伸び悩む状況が続けば、必然的に、経済のサービス化(脱工業化)が加速し、製造業等は停滞や空洞化のリスクがあります。一方で、かつての日本のように、投資や輸出を軸とした成長が続けば、製造業の基盤は安定します。

つまり、産業構造の変化は、個別産業の優劣の問題ではなく、各経済主体の消費と投資という行動原理とそれを取り巻く貿易動向の帰結であると言えるでしょう。