ブログの目的

米国の関税政策や地政学リスクという「不確実性」に日本経済は翻弄されています。そのうえに、日本経済は、「成長と分配の循環不全」という構造的問題に直面しています。

戦後日本経済は経済成長率を重視して経済社会が形成されてきました。経済成長率重視とは、投資と輸出が経済成長の牽引役を担い、その牽引力を強化するために様々な経済政策を展開するというものでした。経済成長率が高まれば、付加価値が増加するので賃上げが実現して家計の生活水準も向上し、政府は多くの税収をえることができ、それをもとに社会保障の原資も確保することができました。

しかし、1991年のバブル経済崩壊後、投資のうち民間投資(=民間企業設備投資+民間住宅投資)及び輸出ともに増加率が鈍りはじめ、経済成長率が大幅に低下しました。その状況を改善するため、政府は公共投資を拡大しましたが、経済成長率低下に歯止めをかけることができず、副作用として多額の財政赤字が累積し、財政赤字問題が経済成長を阻害する大きな重石になってしまいました。

経済成長率の低下とともに、家計に分配される付加価値の増加率も鈍化し、実質賃金はほとんどあがらず家計の生活水準向上も大きく制約される状況が現在まで続いています。また労働市場の流動化を背景に、非正規規雇用者が大幅に増加し、正規雇用と非正規雇用における所得格差の広がりも黙過できません。多額の財政赤字を背景に、社会保障制度を支える財政基盤が大きく揺らいでいます。このままでいくと、「失われた20年」が「失われた30年」、さらには「失われた40年」になりかねない状況です。

このような中で、経団連は、「日本産業の再飛躍へ~長期戦略にもとづく産業基盤強化を求める~」(2024年4月16日)という政策提言をもとに、経団連会長は、国内の民間の設備投資額を2040年には現在の2倍の200兆円まで伸ばすという目標を示し、官民一体の取り組みの重要性を強調しました(NHK 2025年1月27日)。

これは、戦後日本経済が実現した「高度経済成長よ、もう一度」という発想であり、民間設備投資主導の経済成長をめざすというものです。2024年から2040年にかけて、年増加率に換算すると約4.5%で持続的に拡大するという想定になっています。

民間設備投資は、「将来予想される総需要の変化率」を示す期待成長率に大きく影響を受けます。経団連は、生成AIに代表されるイノベーションが期待成長率を高めると想定しています。イノベーションが期待成長率に与える影響は一定あると思われますが、期待成長率に大きく影響を与えるのはいうまでもなく消費を中心とする将来の国内需要のゆくえです。将来の国内需要が持続的に増加することに企業が確信を持てば、期待成長率も高まり、民間設備投資が持続的に拡大する可能性があります。

しかし消費のもとになる実質賃金の上昇がみられない中で、国内需要増で期待成長率が高まるというのは困難で、経団連が想定するような設備投資の持続的な大幅拡大は現実的ではないと言わざるをえません。

日本経済が抱える構造的問題は、「成長と分配の循環不全」です。企業が設備投資を拡大しようとしても経済成長の果実である付加価値のうち賃金として分配される部分が過少であるがゆえに、消費が伸びず国内需要が増大しないため、企業の設備投資意欲も持続しません。成長と分配の循環不全とは、設備投資が増えても消費が増えないので設備投資が失速するという現象を生み出します。

これに対して成長と分配の好循環が実現できれば、持続的賃上げが、消費を継続的に増やし国内需要の安定期的拡大によって設備投資も着実に増加することになります。ここで重要なことは、賃上げが実質賃金の上昇につながるかどうかです。賃上げしても物価がその分上昇したら、実質賃金は上昇しませんから、実質の消費も増えません。賃上げしても物価が上昇しないためには、付加価値の分配を是正して、成長と分配の好循環を実現することが重要になります。

経済成長の牽引役を設備投資から消費にバトンタッチし、積極的に賃金主導の経済成長径路を定着させて国民の生活向上を実現していくという「攻めの経済」の発想が重要になります。そのうえで、人生の様々な不確実性にもかかわらず全ての国民の安心した生活を守ることができる社会(=「守りの社会」)を構築していくことが不可欠です。

本ブログの目的は、「攻めの経済(一階部分)」、「守りの社会(二階部分)」、「二階建て構造」をキーワードに、これからの日本経済社会のあり方を多面的に議論することにあります。

「攻めの経済」では、賃金主導による攻めの経済サイクルを確立して、働く全ての人々の実質賃金の持続的拡大を目指します。実質賃金の持続的拡大は、国民生活向上の土台であると同時に出生率の下落に歯止めをかけるための経済的基盤を形成することになります。また、

トランプ関税やウクライナ戦争など様々な海外ショックが起こるたびに日本経済は翻弄され続けていますが、攻めの経済では、海外ショックに柔軟に対応できる自律的産業構造の積極的構築を目指します。

「守りの社会」は、財政に裏打ちされた福祉社会をしっかりデザイン化して、長期にわたってそれを守り続け、全ての国民の安心感を醸成することを意味します。福祉社会は、どんな環境変化があっても健康で文化的な最低限度の生活を保障する社会保障制度が大きな柱になります。同時に、福祉社会は充実した子育て支援や教育費無償化などの少子化対策を根付かせ、全ての子どもたちに健やかな成長を保障する社会です。

なぜ「攻めの経済」が一階部分で、「守りの社会」が二階部分か?について説明します。日本の社会保障制度の中心である公的年金制度・医療保険制度・介護保険制度などの社会保険制度は賃金から拠出される保険料が財政的基盤を支えている。また、生活保護制度、子育て支援や教育費無料化などは賃金から徴収される税収が大きな役割を果たしています。賃金こそが福祉社会の命綱です。したがって、持続的実質賃金アップをめざす攻めの経済が一階部分、それに大きく支えられる福祉社会が二階部分になります。持続的な賃上げを目指す「攻めの経済」が強固な一階として存在してこそ、その上に「守りの社会」という豊かな生活を築くことができます。この相互依存関係こそが、新生・日本が歩むべき道です。

本ブログでは、まず「攻めの経済」と「守りの社会」の二階建て構造の総論的説明を、理論編・構造改革編・展望編の3部に分けて行います。各部での主な議論のポイントについては、「総論の流れ」を参照して下さい。